ケイドロで考える界面活性剤
- naohisa
- 2023年3月25日
- 読了時間: 6分
更新日:2023年5月2日
ケイドロという遊びをご存知だろうか。地域によってはドロケイとも呼ばれている。
石鹸に興味のある人、またはサトチカソープを使った人からサトチカソープは凄い、肌がツルツルになる、突っ張らない、でも何で凄いの?とよく聞かれるのだが、使用感に関して言うなら、それは界面活性剤の働きについて知っておかないと正しい認識は難しいように感じている。
しかし、意外と界面活性剤とは何かという事を知ってる人は少ないし、化学の中でもかなり難しい分野だと思っている(界面化学、界面科学、コロイド化学など)ので、かなり説明が難しい。
まあ、簡単に言えばリノール酸ナトリウムなどの多価不飽和脂肪酸のナトリウム塩が持つ界面活性能力(臨界ミセル濃度)がマイルドでそのために肌に優しい洗浄感になるということなのだ。そして、そのような脂肪酸の含有量が菜種油やヘンプ油は多いのだ。
こんな説明をすると何となくは分かってくれるのだが、まあかなり難しい。そこで、石けんを含む界面活性剤が汚れなどを落とすという事はどうゆう事なのか、昔ながらの遊びのケイドロで分かりやすく説明出来ることに気づいたので以下、ケイドロを例に界面活性剤の働きについて説明してみたいと思う。
以下、まずはケイドロについてWikipediaの概要である。
「警察」(鬼、追う側)と「泥棒」(子、逃げる側)に分かれて遊ぶ鬼ごっこである。警察はかくれている泥棒を見つけて捕まえ、「牢屋」に入れる。牢屋に入れられた泥棒も、仲間の泥棒に助けられると再び逃げることができる。泥棒が全員捕まると終了となり、警察と泥棒を入れ替えて次のゲームに移る。
広い場所で大勢で行うダイナミックな遊びで、ストーリー性のあるスリリングな設定もあって、子どもたちに人気の鬼ごっこの一つとなっている。日本では、昭和以前から行われていた伝承遊びの一つであり、地域によってさまざまな名称で呼ばれている。ただし、警察が泥棒を追いかけるという同様の遊びは日本以外でも見られる。
子が捕まっても仲間に助けられて再び逃げることができるという点から、「助け鬼」の一種に分類される。また、鬼と子の関係は、集団と集団の関係となることから、仲間同士での協力や作戦が重要となる。この観点からの分類では、「集団遊戯おに型」、その中の「対抗おに」に分類される。フジテレビで放送されている『run for money 逃走中』は、ケイドロの派生形とされる。
ここでまず、小学校の体育館の中、子どもたち50人がいるところを想像してほしい。そして、子どもたちが警察である。そこに、先生10人が泥棒役として体育館に入って来た。
さぁ、ゲーム開始である。
ただし、里地化学研究所の独自ルールとして、
牢屋はある場所に固定しないで、警察官3人以上集まって、手を繋いでサークルを作れば、そこを牢屋として泥棒を捕まえておくことができる、というルールを設定する。
警察官が多く集まれば集まるほどサークルは大きくできるので、牢屋の中に入れる泥棒の数も増やすことができる。
ゲームのコツとして、泥棒の数に応じた必要最低限の警察官で最小限のサークルを作っておけば、自由に動けるフリーな警察官の数を最大化できるので、泥棒は早く捕まりゲームは早く終了することとなる。
さあ、いよいよケイドロのゲームスタートである。
逃げ回る先生。はやいはやい!
流石に大人の足は早い!
しかし、先生10人に対して、子ども50人。
角に追い詰められたり、じわじわ囲まれたり、あっという間に8人の先生が捕まってしまった。
8人の先生をそれぞれ個別に牢屋に入れておくのに24人の子どもたちが必要だが、体のやけに大きな先生がチラホラいて、とても3人では牢屋を作れない。結局、8人の先生を捕まえておくのに30人の子どもが必要となった。
しかし、残り20人の子ども達が自由に動ける状況。現在、逃げている先生は残り2人。
後は時間の問題でゲーム終了はあっという間にきた。
子ども達の圧倒的勝利!
達成感MAXの子ども達!
うなだれる先生方。
おつかれ様でした。。
さて、ここで、ケイドロの話を界面活性剤の話へとつなげる。実は、界面活性剤の働き・動き方・能力は、完璧にケイドロで説明出来るのだ。
界面活性剤=子ども達
油汚れ=先生
という設定で界面活性剤が汚れを落とすことのメカニズムが説明ができるのだ。
その事を理解するためにまず界面活性剤の分子構造の話をしよう。
と、その前に、植物油に含まれる一般的な脂肪酸について、その化学構造を示しておく。

この脂肪酸の水素(H)がナトリウムやカリウムなどに置き換わると界面活性剤として機能するようになる。脂肪酸自体はほとんど水に溶けない。
このような界面活性剤について、より詳細にみていこうと思う。下に示す図のように、界面活性剤は、油に馴染む疎水基と水に馴染む親水基を一分子内に持っている構造をしている。図の赤い部分が親水基で、緑色で表した棒状の部分が疎水基である。これは、植物油を分解して出来る石鹸成分であり、油の種類によって緑色の部分の形、大きさが様々である。ここではまだ詳しく説明しないが、例としてステアリン酸ナトリウム、リノール酸ナトリウムを挙げておく。ナトリウムイオン(Na+)は水に馴染むことが出来る赤い部分を安定化させるために近くに存在しているだけである。小学生達が登校中にかぶる黄色い帽子みたいなものだと思ってもらえれば良い。

重要なのは、緑色の油に馴染む部分を持っていることで、これがあるために水中で油汚れを捕まえることができるのだ。ただし、単独の分子で捕まえることは至難のわざで、何十分子、何百分子の界面活性剤分子で捕まえることとなる。
そして、捕まえた油を水の中に溶かして安定化させるために水に馴染む赤い部分が必要なのだ。
以下に、界面活性剤が油を捕まえて水に溶かしている様子のイメージ図を示す。

油を一分子の界面活性剤で捕まえておくのは大変なのは、この図から何となくわかって欲しい。集団で油を囲んでしまえば、かなり安定的に水中にとらえておくことができるのだ。
まさに、ケイドロ(里地化学研究所ルールの)。
界面活性剤(子ども達)が油(先生)を全部捕まえて囲ってしまえば、ゲーム終了。界面活性剤チームの勝ちである。
どれくらいの時間でゲームが終了するかは、先生1人に対する子ども達の人数で決まる。
また、子ども達がどんな集団なのかによってもゲーム終了時間は左右される。
スポーツクラブの子ども達なのか、中学生・高校生なのか、それとも将棋クラブのような文化系クラブの子ども達なのか、または、いろんな子がいる地元の町内会のメンバー達なのか。
捕まえておくのが得意な子もいれば(手の長い子)、囲いが甘い子(目移りして、囲っていたのに違う先生を捕まえに行ってしまった子)もいる。
これが石鹸の場合、疎水性の部分の様々な構造に起因し、そういった界面活性剤(=子ども)の構造に起因する能力でゲーム時間(捕捉時間、捕捉能力)が左右される。この事を界面活性能力という。
また、図の中で水面に一列に並んだ界面活性剤分子たちは、体育館から外に先生達が逃げないように体育館の入り口を塞いでいるグループだと思ってもらえれば良い(そんなルール違反は上記のゲーム中に起こらなかったが。)。
以上が界面活性剤をケイドロで考えた場合の説明になる。
・・・・・・ただ、もし体育館の中じゃなかったら。。。もしも、校庭まで広げて、この人数でケイドロをやっていたら。。。ゲーム終了は難しかったかもしれない。。。
先生達の逃げ切りにより疲れ果てた子ども達が泣いていたかもしれない。。。
この話は、別のところで臨界ミセル濃度(critical micelle concentration=CMC)という界面活性剤の能力を現す指標を説明する時に一緒に考えてみることにしよう。
文字だけだと中々頭に入りにくい難しい言葉たちも、あそびと図を絡めて説明してもらえると頭に入りやすいね(^^)!